東京高等裁判所 昭和39年(ネ)2094号 判決
右認定事実によれば、被控訴人は賃貸借契約解除の原因とされた下屋の建築までに既に数度にわたり控訴人の本件家屋に対する所有権を無視して擅に増改築等をなしており、然も右下屋の無断建築は、事前に控訴人から無断で増改築等をすれば賃貸借契約を解除するという強い警告を受けていたにも拘らず敢えてこれを無視してなされたものであることが認められるのであつて、右の如き被控訴人の所為は善良なる管理者の注意を以つてなすべき家屋賃借人の保管義務に違反し、家屋所有者たる控訴人との信頼関係を破壊する著しい背信行為に該るものといわざるを得ない。
従つて被控訴人の右下屋の無断建築は賃貸借契約解除の事由となり得べきところ、被控訴人が控訴人よりの右無断増築部分の収去の催告に応じなかつたことは弁論の全趣旨により明らかであるから、控訴人のなした上叙の停止条件付賃貸借契約解除の意思表示は、催告期限の昭和三十二年九月十日の経過を以つてその効力を生じたものというべきである。(中略)
よつて被控訴人は控訴人に対し昭和三十二年九月十一日以降本件家屋を明渡すべき義務がある。
然るところ控訴人は被控訴人に対し同人が増改築した部分の収去を求めるのであるが、賃貸借終了の場合の賃借物の原状回復(賃借物の返還を除く)は賃借人の権利であつて義務ではなく、かえつて被控訴人は本訴において増改築等本件家屋に費した必要費、有益費の償還を請求しているのであるから、控訴人の右部分の収去を求める請求は容認することはできない。
(毛利野 加藤 安国)